足るを知る

足るを知るという言葉がある。
出典は「老子」で「足るを知る者は富み、強めて行う者は志有り」の一節だ。満足することを知っている者は心が豊かであり、努力している者は意志があるという意味である。老子の時代から人間の欲望にはきりがなかったのか。分相応なところで満足せよという戒めともとれる。
たしかに、人間の欲望には、きりがない。病に伏せている時は健康があれば他に何も要らないと願うが、回復するとお金や名声が欲しくなる。お金を手に入れると、それをもっと増やしたいと願う。名声を手に入れると、それを維持継続したいと願う。「これで充分」ということは、あまりない。
ある意味、この終わりのない欲望こそが、人類を次なる目的地へと進化させてきた源とも言える。「これで充分」と思ってしまうと、そこから先に進めなくなる。常に向上を求めて研鑽するのが人間だとすると、今の状態に甘んじていてはいけない。たしかにそうなのだが、満ち足りることを知らずに求め続けることも問題であり、人間を疲弊させてしまう。
満足することを知っている人は、幸せになる方法を知っているんだと思う。毎日少しずつでもステップアップ目指して努力を重ね、忙しい日々を過ごす中で、ふと足を止め、道端の小さな花をめで、こうして元気で暮らしていることに感謝する。この短いひとときこそ「足るを知る」瞬間なのだと思う。
幸せが何であるかを知っていることが、幸せになるための必須条件だと言われるが、同じように足るを知ることこそ、次へのステップのひとつとなるのだと思う。